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2014年9月

においの記憶

古いアンティークの飾ってあるお店や
古い喫茶店、
たとえば鎌倉のミルクホールなどに行くと
なんだか機械油のようなにおいがあるときがある。
機械油っていうか、ミシン油って言うか。
昔、足踏みミシンが家にあったころ、ボディーをつかんで起こすとき
このにおいがしたなあって。

そうそう、掛け時計。
うちに古い掛け時計があって、
もちろんお屋敷なんかにかざってあるあんな風格のあるものじゃなくて
四角い箱みたいなものだったんだけれど、
これがゼンマイ式で、おおよそ1カ月に1回ぐらいねじをまかないと止まってしまうので
掛け時計の真ん中のまあるい印が赤くなってきたら、
椅子を持ってきてゼンマイを巻くのは子どもの仕事だった。
最初は椅子の上に爪先立って巻いていたけど
だんだんと容易に届くようになると内部をしげしげと眺めながらねじを巻いていた。
よく父に「巻きすぎないように」と言われていたけど
ちゃんと丁寧にあつかっていると、ここが終わりっていうところが分かるんだよね。
右と左のゼンマイをおおよそ30回巻いて、ゼンマイをまくカギみたいなのをしまうと
かならず油のにおいがした。

あの油のにおいはちょっとのどにくるんだけど、
ああいうにおいのする喫茶店のコーヒーは
総じてあんまりおいしくない。(個人的な意見です)
アンティークの機械の中でコーヒーが飲めるというシチュエーションを楽しむもんなんだなと思う。

掛け時計はいつも父を思い出す。
昼間の父の顔。

まじめで几帳面で、潔癖だった。
夜になるとお酒が入って豹変したけどね。

父がなくなって、あの掛け時計はいつの間にか洋風の仕掛け時計に変わっていた。
和室なのに、孫に受けたいと思った母が買い替えてしまったのだ。

機械油のようなにおいを嗅ぐと、必ずあの時計を思い出す。

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